Partager

第50話 変な好きでも、笑わない場所

last update Date de publication: 2026-09-22 15:33:13

第50話 変な好きでも、笑わない場所

 交流祭終了のアナウンスが流れたのは、夕方五時を少し過ぎた頃だった。

 学生ホールの人波が、ゆっくり外へ流れていく。

 朝からずっと人がいたせいか。

 急に静かになると。

 少し変な感じがした。

「終わったね」

 陽菜が言う。

「うん」

「長かった」

「かなり」

「悠真、途中かなり休んだけど」

「そこ言う?」

「大事」

「もう反省した」

「本当に?」

「かなり」

「次また無理したら?」

「怒られる」

「誰に」

「陽菜」

「私だけ?」

「神崎先輩と久我にも」

「よし」

 完全に管理対象になっている。

 でも。

 今日は。

 それでいい気もした。

 俺たちは。

 少しずつ片付けを始めた。

 匿名カード。

 模造紙。

 風船。

 受付用の机。

 案内板。

 そして。

 陽菜の体験文。

『高校生の頃、同級生に汗の匂いのことを言われてから、私は自分の匂いが嫌になりました。』

 そこから始まる。

 一枚の文章。

 交流祭前。

 出すかどうか。

 何度も悩んだ。

 文章にする時も。

 俺とかなり揉めた。

 それでも。

 最後は。

 陽菜自身が。

 出すと決めた
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Dernier chapitre

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第64話 知らない男の柔軟剤を、彼女から感じた

    第64話 知らない男の柔軟剤を、彼女から感じた 翌日の夕方、大学を出たところで雨が降り始めた。 最初は細かい雨だった。 傘を出すほどでもないと思って歩いていたら、五分もしないうちに粒が大きくなり、駅へ着く頃には完全な夕立になっていた。夏らしいと言えば夏らしいが、降られる側からすると季節感より迷惑のほうが大きい。 俺は駅前の屋根の下へ逃げ込み、スマートフォンを確認した。 陽菜からは、一時間ほど前に連絡が来ている。『今日も練習。たぶん雨来るから、終わる時間ちょっと読めない』 十五分だけ会った昨日とは違い、今日は会う約束をしていなかった。 それでも、俺は少しだけ期待していた。 練習が早く終わったら、帰りに会えるかもしれない。 前なら、そう思っても何も言わなかった。 今は一応。『終わって時間あったら少し会いたい。無理ならそのまま帰っていい』 と送ってある。 陽菜からは。『私も。終わったら連絡する』 と返ってきていた。 会いたいと伝える。 会えるかどうかは向こうが決める。 最近の俺たちが覚えた、一応のやり方だった。 雨脚がさらに強くなる。 陸上部。 どうしているだろう。 屋外練習なら中止か、途中で切り上げているかもしれない。 そう考えていたところで、スマートフォンが震えた。『終わった。今から駅行く!』 続けて。『めちゃくちゃ濡れた』 俺は。『駅で待ってる』 と返した。 十分ほどして。 陽菜が来た。

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第63話 忙しい彼女に、十五分だけ会いに行く

    第63話 忙しい彼女に、十五分だけ会いに行く 土曜日の午後、陽菜から届いたメッセージは、予定よりずっと遅かった。『練習、ほんとに長引いた。今終わった』 その下に続けて、『ごめん。駅着いてから十五分くらいしか会えないと思う』 俺は少しだけ考えてから、前の日に決めた通りに返した。『十五分でも会いたい』 送信。 今度は消さなかった。 数分後、陽菜からすぐ返ってくる。『私も』 その二文字だけで、思ったより満足した。 大学近くの駅前へ着いたのは、約束より少し早い時間だった。俺は改札の外で待ちながら、何となく時計を見る。 十五分。 普通なら、会う時間としてはかなり短い。 食事へ行くには足りない。映画なんて当然無理。買い物をするにも中途半端だし、どこかへ移動したら、その移動だけで終わる。 わざわざ会うほどなのかと聞かれたら、少し前の俺なら迷ったかもしれない。 でも今は、そういう問題ではなかった。 会いたい。 だから来た。 それだけで十分だった。「悠真!」 声がして、顔を上げる。 陽菜が改札を抜けてきた。 練習帰りらしく、大きなスポーツバッグを肩へ掛け、髪は少し乱れている。着替えてはいるが、頬はまだ少し赤く、首元には運動後らしい熱が残っていた。「ごめん、ほんとに遅くなった」「謝らなくていい」「でも悠真、結構待った?」「十分くらい」「それは待ってるじゃん」「早く来た俺が悪い」「何で早く来たの」「遅れたくなかったから

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第62話 会いたいって言うのは、束縛になりますか

    第62話 会いたいって言うのは、束縛になりますか 陽菜に「会いたい時は言って」と言われた翌日から、俺は逆に何も言えなくなった。 理由は簡単だった。 言っていいと分かった途端、どこまで言っていいのかが分からなくなった。 朝、陽菜から「今日は授業のあと練習」とメッセージが来た時、本当は少し会いたいと思った。でも練習があるなら無理だろうと、そのまま「了解」とだけ返した。 次の日は、昼休みにたまたま時間が合わなかった。午後の講義が終わってからなら十五分くらい会えそうだったが、陽菜はそのまま部活へ行くはずだったので、やはり何も言わなかった。 三日目。『今日、練習たぶん早く終わる!』 陽菜から届いた。 前に言っていた木曜日。 会えるかもしれない日だ。 俺はすぐ、『終わったら連絡して』 と返した。 それだけ。 本当は。『会いたい』 まで打った。 でも消した。 自分でも面倒だと思う。 前は、会いたいと言わないことを指摘された。 今度は、言うことが怖い。「香坂、お前最近メッセージ打って消すの好きだな」 隣から蒼に言われた。 講義が終わった直後だった。「見てた?」「見える位置で三回くらい消してれば嫌でも気づく」「別に」「またそれ?」「今回は本当に大したことじゃない」「じゃあ何打った」「会いたい」「で、消した?」「うん」 蒼は呆れたように俺を見る。

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第61話 彼女が忙しいと、会えない理由にまで嫉妬する

    第61話 彼女が忙しいと、会えない理由にまで嫉妬する 夏休みが近づくと、陽菜の予定表から俺の入る隙間が少しずつ消えていった。 正確には、消えたわけではない。昼休みに会う日はあるし、講義終わりに十分だけ話すこともある。電話もする。ただ、前みたいに「今日帰り一緒に帰る?」と聞けば、かなりの確率で「いいよ」と返ってくる状態ではなくなった。 理由は全部分かっている。 陸上部。 夏の大会。 強化練習。 ミーティング。 先輩後輩との調整。 夏休み中の合宿準備。 どれも遊びではないし、陽菜にとって大切なものだ。 だから。 理解している。 理解しているのに。『今日、練習後みんなでご飯行くことになった! 帰り遅くなるから電話はまた明日でもいい?』 そのメッセージを見た瞬間、俺は少しだけ面白くなかった。 その日は、夕方に電話する約束をしていたわけでもない。 俺が勝手に、今日は話せるかもしれないと思っていただけだ。 それなのに。『了解。楽しんで』 と返したあと、スマートフォンを伏せて。 数秒して、また開いた。 何を確認したかったのか、自分でもよく分からない。 返信は来ていない。 当然だ。「香坂」 向かいから蒼が言った。「何」「さっきからスマホ裏返したり戻したり何してんの」「別に」「それ、別にの動きじゃないだろ」 俺たちは大学近くの喫茶店にいた。 蒼がバイトに入る前、珍しく時間が空いたと言うので、俺も付き合っている。

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第60話 初めてのツーショットは、たぶん全然盛れてない

    第60話 初めてのツーショットは、たぶん全然盛れてない 明後日に撮る、と約束した初めてのツーショットは、約束した時点ですでに少し面倒なものになっていた。 当日の朝、陽菜から最初に届いたメッセージがこれだった。『今日、写真撮るんだよね?』『その予定』『服、普通でいい?』『いつも普通だろ』『そういうこと言ってるんじゃない』 その五分後。『髪どうしよう』『いつも通りでいいんじゃない』『悠真に聞いた私が悪かった』 さらに十分後。『やっぱポニーテールにする』『了解』『反応薄くない?』『何て返せば正解』『可愛いと思う、とか』『まだ見てない』『そういうところ!』 朝から疲れる。 でも、嫌ではなかった。 昼過ぎ、講義を終えて大学の正門近くで待っていると、陽菜は本当にいつも通りのポニーテールでやってきた。服も特別に気合いを入れた感じではなく、薄い色のシャツにスカートという普段に近い格好だった。 俺を見るなり、陽菜は少し不満そうな顔をした。「何か言うことない?」「お疲れ」「違う」「暑いな」「もっと違う」「髪」「うん」「いつも通り」「……悠真」「何」「今日だけでいいから、もう少し彼氏やって」 かなり無茶を言う。 でも、朝のやり取りで正解は聞いている。「似合ってる」

  • 『彼女の汗の匂いだけ、なぜか忘れられない。~匂いに敏感な俺と、秘密のフェチを抱えた女子大生たち~』   第59話 恋人の写真を持っているだけで、安心する?

    第59話 恋人の写真を持っているだけで、安心する? 声の録音について話し合った次の活動日、神崎先輩は机の上に一枚の相談カードを置いた。「今日はこれね。前に一度読んだけど、ちゃんと考える時間が取れなかったやつ」 俺がカードを手に取ると、見覚えのある文章だった。『付き合っている恋人がSNSに載せた写真を全部保存しています。削除された投稿の写真も残っています。見ると安心します。本人には言っていません。これって怖いですか。』 読み終わったところで、陽菜が少し難しい顔をした。「前に読んだ時も思ったけど、これ答えにくいね。付き合ってるなら写真持ってること自体は、そこまで変じゃないと思う。でも全部って言われると、ちょっと引っかかる」「削除されたものまで残してるのもあるな」 俺が言うと、澪先輩も頷いた。「本人が消した理由が分からないから。単に投稿を整理しただけかもしれないし、写りが嫌になったのかもしれないし、残したくなくなったのかもしれない」「でも、一回ネットに出したなら保存される可能性はあるよね」 陽菜が言った。「可能性があるのと、恋人が黙って全部保存していいかは別じゃない?」 神崎先輩が返すと、陽菜は少し考えてから「それはそう」と頷いた。 この手の話は、最近ずっと同じところへ戻ってくる。 好きだと思うこと自体は自由。でも、その気持ちを何かの行動へ変えた瞬間、相手がいる。 ただ、今回は少し違った。「これ、相談者は何に安心してるんでしょうね」 俺が聞くと、神崎先輩が少し意外そうな顔をした。「そこ気づいた?」「文章に書いてあるので。『見ると安心します』って」「そう。私はそこが一番気になった」 陽菜が相談カードを覗き込む。「写真

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status